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けそのブログだよ

自分の妄想に恋すること、あるいは思い人B´について:『やれたかも委員会』4巻の感想

もう1月も3分の1が終わらんとしていますが、あけましておめでとうございます。

栗きんとん、ヨーグルトに入れるとおいしいことを発見したけそです。
今年もよろしくお願いいたします!

 

週に1回くらいはブログを更新したいと思っているのに、なかなかできずにすみません。今年は、2週間に1回くらいは更新していきたいです…(貴重な読者の方へのメッセージ)。月に1回くらいご来訪いただけたら嬉しいです…。

書きたいこと・おすすめしたいものがほんとにいろいろあるんですが、今日は前に書いて眠ってた文章のお蔵出しを。ドラマ化もされた漫画、『やれたかも委員会』4巻の感想です。ちなみに、Kindle Unlimitedの対象です。
今日は重いものは読めないけど何か読みたい…って時におすすめの、コメディタッチの漫画。

 

 

「もし、自分があの瞬間に違う行動を取っていたら、いい雰囲気だったあの人と一線超えられていたかもしれない…?」
…という思い出を参加者が語り、謎の組織・「やれたかも委員会」の3名がそのエピソードに「やれた」「やれたとは言えない」いずれかの札を上げてそのエピソードを判定するという、ちょっとバラエティ番組風なシステムになっている漫画シリーズの4巻です。

 


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(↑『やれたかも委員会』1巻より引用。判定タイムはこんな感じです)


読者からの体験談を募ったりしながら綴られる各エピソードは、ディテールが妙にリアルで、臨場感のあるどきどき(と、くすくす)を楽しむことができます。以下は、『やれたかも委員会』第1巻のcase004からの引用。f:id:arisam_queso:20220109182223j:image


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↑こういう感じで、端から見たら滑稽だけど脳内会議を開いている本人はめちゃくちゃ必死!っていう描写が多いのです。あるよね!!そういう瞬間!

 

他の巻ではオムニバス形式で短いエピソードが複数掲載されているのですが、4巻は寺河内という男性の「やれたかも」エピソードを1冊じっくり描いてます。

以下、後半にちょっとネタバレもあるので、気になる方は今の段階でぜひ漫画へ進んでみてください…。


=あらすじ=

中高男子校で育った寺河内は、これまで女性と言えばほとんど親族としか話したことがなく、大学では男女混合のサークルに入って彼女を作りたいと考えていました。
そんな彼が大学で入ったスキューバダイビングサークルは練習がとても厳しいTHE体育会系な場所でしたが、それでも頑張れたのは1年上の女性・日野先輩に憧れていたから。しかし、日野先輩はすでに同じサークルの筧先輩という彼氏持ち。傷つきながらも、なんとか日野先輩を好きだった気持ちを忘れようと一層サークル活動に打ち込んでいた寺河内でしたが、ここで事件が起きます。なんと、サークル活動に熱中しすぎた日野先輩が留年し、寺河内と同じ授業を受けることになったのです。
一緒に勉強したりして距離が縮まる二人。最近彼氏とはどうなのか尋ねると、「まー長いからねー 最初の頃みたいにはいかないよねー」と、あまりうまく行っていないことを匂わせる日野先輩。勇気を振り絞った寺河内は、彼女をデートに誘うことにするのですが…。

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この巻ならではのお気に入りポイントは、主人公の寺河内が途中で考える「『好き』という気持ちはどこにあるんだろう?」という思考の内容です。寺河内は、こう語ります。

ある男AがBという女の子を好きだとします

〔中略〕

僕のような片想いの場合 AはBのことが好きと言いつつも 実はAの頭の中で作り上げた自分にとって都合の良いBそっくりのB いわばB´(ビーダッシュ)のことが好きなのです

(『やれたかも委員会』4巻より引用)


作中、このことが何気なく語られますが、恋愛の多くのすれ違いは彼が考えた通り、「自分が勝手に打ち立てた『頭の中で練り上げた相手像』と本当の生身の相手が違っていたこと」から生じているんじゃないでしょうか。少なくとも25歳くらいまでの私は、その時々の恋人を「好き」って思いながら、相手の(自分にとって)都合が悪いところをちゃんと見ようとしてませんでした。例えば相手のコンプレックスを表面的にしかわかっていなかったりとか…(今だって、交際相手のことちゃんと見られてるとは言えない気がしますが…)。

漫画の話に戻りまして。
『やれたかも委員会』はタイトルにある通り、全てが失恋のエピソードです(もしかしたらこれからまた何かあるかも?と感じさせるパターンはありますが)。ということで、寺河内もやっぱり最終的には失恋してしまいます。しかし、学生時代、せっかくここまで片想いの秘密(?)に迫っていた寺河内、やれたかも委員会でエピソードを披露している40歳になった現在でも、「もしかしたら付き合える未来もあったんじゃないか?」と考えていました(日野先輩の「きれいなだけじゃない面」には全然目を向けてないっていうのに!)。

ここで光るのが、参加者がただ思い出エピソードを披露するだけではなく、3人の委員がそのエピソードについて判定を下すという、『やれたかも委員会』のシステムです。3人の委員のうち一人だけ女性(月満子氏。財団法人ミックステープという謎の団体の代表をしている)がいるのですが、このシリーズのほとんどのエピソードで「やれたとは言えない」の札を上げて参加者の都合のいい妄想を砕いてきた彼女、やっぱり今回も「やれたとは言えない」の札を上げます。月はその理由として、寺河内が語る日野先輩像は「あの子は清く美しいという『決めつけ』」があり、「あなたの求める日野先輩は実際の日野先輩ではない」から、もし付き合えていたとしても、案外あなたのほうから別れていたのでは?と指摘します。

 

初期の『やれたかも委員会』は、ちょっと女性を神格化しすぎてる節があって「うーん…」と思うところもあったんですが、徐々に、女性だって神じゃないから!しょうもないとこたくさんあるから!性欲もあるから!っていうのが描かれる割合が増えてきて、嬉しい限りです(まあ、まだ「ちょっとこのエピソードはひどいな…」と思うこともあるんだけど…今の時代にラブコメを描くのってすごく難しいことですね…(←これは、昔が良かったという意味ではありません、あくまで))。

4巻について言えば、どうしようもなく好きだった相手と付き合えなかったことで長く苦しんでいるすべての方に響く内容になってると思います。時々古傷がうずくような方も、ぜひ。