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ずるい君の気持ちが、わかるよ:漫画『ちはやふる』の感想

ちはやふる(28) (BE・LOVEコミックス)

 

今日取り上げるのは、今更扱うのは無粋感もりもり…な、超有名かるた漫画、『ちはやふる』です。

今更…なんだけど最近最終回が公開されて、その近辺の48時間だけ既刊が無料開放されていたのでここしかねえ!と思って一気読みしたのでした。前にnoteでもちょっと感想を書いたことがある(気がする)んだけど、最後まで読み終えた今、この感動を残しておきたかったんだ…。今年どころか生涯ベスト10に入る漫画だったから…。深夜3時くらい、「眠いからここまで読んだら寝よう…」って思って読んでた巻が良すぎて、深夜なのにぼろっぼろに泣いて興奮して目がさえちゃったからね!!!(深夜は寝ろ、私)

それまで、7巻の内容まで漫画アプリ(マガポケ)で読んでたんだけど、「ここから40巻以上も読むのはきつい」と思って一回追うのを中断していた。しかし無料期間中、一気に34巻まで読み、期間終了後は最新巻(49巻)まで自腹で買って、さらに最終話までアプリで単話購入して読み切った!!(すごい体力が必要だった!!)

一気読みは大変だったけど、一気読みして良かったなあ、と思う。後ろに行くほど、一つの試合が丁寧に長く描かれていたから、一気に読まないとその「時の流れ」や「勢い」を追えない気がする。一気に読んだことで、過去の出来事(やセリフ)と今の出来事(やセリフ)の関連も新鮮な頭で気づけた。
かるたの文化としてもキャラクター個人としても、「歴史」や「積み重ね」を大事にしている漫画だったから、過去にあったことがどう今につながっているか忘れずに読めたほうが、ずっと感動が深まると思う。


この漫画のおすすめポイントはいろいろあるんだけど、改めていくつか書いてみる。

 

おすすめポイント1:世代から時代から立場から、とにかく視野が広い

この作品で扱われるテーマは「競技かるた」。


主人公のちはやは(小学生編もあるけど作中のほとんどで)高校生で、地域のかるた会と学校のかるた部に所属している。よく宣伝に使われるのは(たぶんキャッチ―だし伝わりやすいから)「かるた部」の面で、だから「高校生青春漫画」だと思ってる人が世間にはおそらく多い。それは間違いじゃないんだけど、その部分はこの漫画のあくまで一部で。

 

この漫画には、かるたにかかわる、老若男女いろんな人が幅広く描かれている。

若い学生の選手だけじゃなく、出産を経て復帰しようとしている選手も、一番体が動く時期は過ぎてしまったと感じている中年の選手も、これから世界を知っていくような小さな小さな選手も、描かれている。

選手だけじゃなく、学生選手を指導する大人も、札を読む人も、かるたを作る会社の人も、選手の生活をサポートする人も、描かれている。

 

それだけでも素晴らしいことだと思うけど、作者の末次さんはかるたをやれるという「老若男女」は「誰でも」とイコールじゃないってことにも、踏み込んでいく。

 

描かれるのは今のことだけじゃない、前の世代が積み上げてきた歴史のことも、そしてかるたが歌としてつくられた時代のことも、丁寧に取り扱われる。

 

だから、現在十二分に大人の人が、「今、高校生青春漫画を読んでもたぶん感情移入できないだろうしなあ」と思ってこの作品を読むことを選択肢からはずしているとしたら、それはすごくもったいない。いろんな世代の、時代の、立場の、たくさんのキャラクターがいろんな感情をめいっぱい動かして生きている漫画だから、青春漫画はちょっと…な人にもぜひ読んでほしいと思う。

 

おすすめポイント2:群像劇としての完成度がとんでもなく高い

まず作者の末次さんは、「いい子(人)じゃないけど、愛しくなっちゃうキャラクター」を描くのがとてもうまい。

相手に褒め言葉をもらうために、わざとそれを導くような自虐を口にしちゃうキャラクター、プライドが高くて人に頼るのが苦手で嫌みばっかり言っちゃうキャラクター、同じ「初心者」だった友達が自分より先に進んでいくのを見て、苦しくなって怒って逃げちゃうキャラクター…。

「そういう気持ちわかるよ」って思うこととか、「ああ、こういう人、私の人生にもいたな」って思うことがたくさんある。みんな、本当に生きている人だ、って感じる。私はけっしていい人じゃないからさ…ずるかったり、コンプレックスのせいで素直になれなくて人を傷つけたりする登場人物たちのことが、まったく他人事に思えなくてさ…。そんな人たちが少しずつ前に進むところが描かれていて、「人生のこんなに大事な瞬間を見せてもらっていいんですか!?」って何回も思いながら読んだ。


一人ひとりがただでさえ魅力的なキャラクターたちなんだけど、その関わり方・化学反応の起こり方が、複雑かつドラマティックで、そこにもとんでもなく感動させられてしまう(私は矢印入りの人物相関図を書いたら複雑になりそうな話が好きなのだ、お互いの呼び方とか話すときの緊張感とかが、それぞれの人物間で細かく違っているような話が)。「この人たちが話しているところをもっと見ていたいな」って思う物語は、そんなに多くないから貴重だ。

世の中には物語のために無理やりキャラクターを動かしている作品もあるけど、この作品は、それぞれキャラクターが自分の信念や守りたいものを持って生きてて、誰かの言動に良くも悪くも動かされて変わっていって、それをただ描いている。そこがすごく好き。


特に心惹かれたのは、「かるたはつらくて好きじゃないけど、かるたをしていないとかかわれない人や知れない感情があるからかるたをやってる」、あるキャラ。「楽器はつらくて好きになれないけど、音楽をやってないとかかわれない人や知れない感情があるから吹奏楽をやってた」私は、共感しまくってべそべそに泣いた。好きなキャラクターは枚挙にいとまがないけど(登場人物めちゃくちゃ多いマンガなんだけど、それぞれのエピソードがよくてみんな大好きになっちゃうんだよね!!!)、このキャラへの思い入れには特別なものがある。

…と、ここまでべた褒めに褒めてきたんだけど、一部気になるところもあって

残念ながらそこのマイナスは結構大きかった…。

具体的には、ジェンダー観が悪い意味で保守的なとこがあったり(例えば女性と美をセットで結びつけるとことか、特に前半セクハラギャグが結構多いこととか。女性選手、かるた界で実は差別されてるのでは?って話とかを後半でしているから、なおのことこういうとこが気になったよ…)、外国にルーツを持つ競技かるた選手の描き方が配慮ないな…ってところとか(外国ルーツだけど日本育ちで、自分たちにとって使いやすい言葉は日本語だってこの選手たちは言ってるのに、主人公たちグループは最後まで英語で会話しようとしたりするのでうんざりした…(『半分姉弟』を読んでくれー---)あと太一の台詞で彼らの英語を「間違ってる」って指摘するとこがあって(←英語でね)それも最悪だと思ったよ…)。
「親の気持ちは親にならないとわからない」言説が美談ぽく使われてるところも嫌だったな…(それは「基本的に誰もが親になるものだ」「親になることが大人になることだ」って価値観と分かちがたく結びついてると思うから。私はこれらの価値観を滅したい委員会のメンバーなのでね…。あとさ!!この台詞は(ちはやふるに限らず、一般的に)いっつもいっつも女の子にばっかりかけられるんだよな!!そこがまじできもい!みんな『母親になって後悔してる』を読んでくれー--この価値観ていうか美談がいろんな人の心をめちゃくちゃにしてることをちゃんと知ってくれー---)。

作者の末次さんはこういう点をちゃんと振りかえって前に進む方だと思うから、次回以降の作品ではぜひ変えていってほしい…。本当に好きな作品だからこそ、そう思う。

 

最後にまとめ…(?)。

まだ読んでない方が、長い作品であることを理由に読むの躊躇するのはとってもわかる。全巻そろえるのは安い買い物じゃないし、読み始めたら読み終わるまでもなかなか大変だし(長さの問題だけでなく、心の揺さぶられ方も激しいので)。でも、読み終わったら「これは必要な巻数だったんだな」って感じると思う。大事な気持ちが絶対たくさん残る漫画だから、ぜひもっともっとたくさんの人に読んでほしいです…。

 

今回挙げたおすすめポイント以外にも、「えっ、においとか音とかって絵でこんなに表現できるんですか!?」とか「百人一首をこんなに身近に感じられるとはな!!」って驚きとかが、いっぱいあって幸せになれるんだよ!

 

ということで1巻を貼っておきます。3巻まで読むと、まずこの漫画の勢いを知ることができると思います。

 

ちなみに『ちはやふる』、表紙がきれいなのも素敵なポイントなんだよねえ…。いくつかお気に入りの表紙も貼る。

 

ちはやふる(38) (BE・LOVEコミックス)

夏っぽくてきれいな色。

 

ちはやふる(45) (BE・LOVEコミックス)

ちょっとダークな雰囲気の表紙もいい。

 

ちはやふる(14) (BE・LOVEコミックス)

私はこの二人が大好きです。野菜もかわいい。

 

ちはやふる(46) (BE・LOVEコミックス)

花を掴んでるこのポーズ、なんか怖さとエロさを同時に感じるよね。新はピュアピュアな心を持ったキャラだけど、実は色気ある人でそこが好きです。

 

ちはやふる(21) (BE・LOVEコミックス)

何の漫画かさっぱりわからないこの表紙も好きです。笑

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10月までYouTubeでアニメも無料公開されるから、漫画からが大変な方はこちらから観てみるのもありだと思います!(1期から3期が1か月ごとに順番に公開される予定で、もうだいぶ終わっちゃったとこもあるんだけど…)。私も一部だけ観たけど、すごく丁寧につくられてるアニメでした!


もちろん漫画のほうがエピソードの追い方は丁寧だから、できればそっちから読んだほうがアニメも楽しめそうな気はするけども、たとえば競技かるたの速さの表現とかは、アニメはより臨場感があります。

prtimes.jp

 

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ちはやふる』ある程度読んでから実際の試合の動画を観ると、おお~これがあれか…っていうのがいっぱいあって、それも面白かったです。

 

youtu.be

 

(高校生の団体戦は、動画を一部観るだけでもドラマが感じられて熱い…。そしてこの動画に出てる高校、たぶん『ちはやふる』の「あの」学校のモデルだと思う…)

 

youtu.be

 

クイーン戦・名人戦は、迫力が凄まじいです!そして展開が速すぎるため、解説ないと、高校生の試合以上によくわからないです…。