螘サンバカーニバル

けそのブログだよ

自分自身の外に出た先の世界:『パリでメシを食う。』の感想

やっと確定申告が終わった!
…ことで抜け殻のようになってしまっているので、ブログを書いていくよ~。
(確定申告の作業をしてた日々はあまりにも気力が奪われて他の仕事が何もできなくて、映画をたくさん観たので、書きたい感想がたまっている)

今日は、本『パリでメシを食う。』の紹介。

 

Kindle Unlimitedで読みかけている本(つまりまだ読破できてない)なのだけど、ものすごく良い本だったので、特にUnlimited入ってる人に早めにおすすめすべく感想を書く。
(と言いつつ、書いてるうちに対象期間終わっちゃってたらごめんなさい!)

著者の川内有緒さんが、パリで仕事してご飯食べてる日本人複数名に、今に至った経緯を聞いて、まとめた本。私は人の人生の話を聞くのが好きで、それはドラマよりよっぽどドラマだよ!ってことがたくさん聞けて面白いからなんだけど、そういう「よっぽどドラマ」が詰まっている本。どの人の話も映画になりそうなんだよね…。パリって、日本だといまだに「おしゃれな街」イメージが強い(気がする)けど、パリの意地悪なところの話も存分に書いてあって、フェアだと思う。

(パリの良いとこ・うーんなとこについては、じゃんぽ~る西さんのマンガでもいろいろ描いてある。こちらの作品↓とか)


びっくりするような速度で人生を切り拓く人って、大抵「多少ハッタリかまして、あとで自分の発言に追いつけるだけの膨大な努力をする」人だよなーと常々思ってるんだけど、そのハッタリのスケールが大きい人が多くて、読んでるこっちがハラハラしどおしだった。その一方で、特に「これをやるぞ!」ってつもりじゃなかったんだけど、とりあえず足を踏み入れてみたらそっちの世界にどんどん引っ張られていった人の話も載っていた。

両者に共通しているのは、自分の外に出ることを(怖くても)やってみてるってことだと思う。私が好きな、スペインの哲学者のオルテガ・イ・ガセットの言葉、「幸せとは自ら自身の外に出ることである」を思い出す。「外に出る」って、必ずしも「お金と時間をかけて大きなことをする」って意味じゃなくて、自分にできるかできないかわからないこと、小さいことでもいいからそういうことを、「もしかしたらできるかもしれない」と信じてみてやってみることかな、と思う。

今まで私が読んだところで特に好きだったのは、三つ星レストランを目指した英恵さんの話と、ヨーヨーアーティストとしてフランスのサーカスに挑戦したYukkiさんの話。


英恵さんの話

彼女の話が面白かったのは、「パリの星付きレストラン界のダークホース×料理人界のダークホース」という、「絶対この店&この人には伸び伸びと活躍してほしい!!」と思う要素がそろっていたからだと思う。いろんな戦い方があるのだ、と勇気づけられる章だった。

もともとグラフィックデザイナーとして働いていたが、三十歳を目前にして「二年くらい料理の世界に浸ってみたい」と、パリに留学した英恵さん(すごい)。店員に横柄な態度を取られ、警察に薬やってる?と疑われ、料理学校の研修先で人種差別に遭い、夢見ていたパリ生活と程遠い思いばかりして暗い気持ちになっていた。

しかしある日、一人の料理人に出会って衝撃を受ける。彼は「世界には色々な食材があり、いつでも発見がある。組み合わせは自由自在で、味の創造は無限大」という考えを持つ人で、フレンチの枠を超えた、自由で新しい料理を作っていた。旅先で出会った面白い食材で料理をしたいと考えていた英恵さんは、「自分がしたいことを実現している人がいる」と感動。彼の店「アストランス」で働きたいと野望を抱く。


そんな店・アストランスは、フランス料理の店として異色の存在だった。
開店後半年でミシュランの一つ星を獲得し、五年後に二つ星を取ったが、三つ星までは無理だろうと言われていた。

理由その一。三つ星を得るには料理だけじゃだめだと考えられていたこと。
大きなダイニングホール、素晴らしい食器、アンティークの調度品。
多くの三つ星レストランが備えているゴージャスな環境を、アストランスは持っていない。十組程度のお客さんでいっぱいにある小さな店で、カジュアルな雰囲気なのだ。店の前の住人が「これおいしそうだから、使ってみて」と自宅の花を摘んで持ってきたのをコースに使ったりもする(!)。

理由その二。アストランスの料理はシンプルで派手さがないこと。
英恵さんは「アストランスが大切にすることは、旬の素材を、一番適した方法で調理すること。調理することで、その素材以上のおいしさを引き出すこと。ある意味で和食に近い料理ですね」と語る。フレンチと言えば多くの人が頭に浮かべるような、こってりしたバターやクリームソース使いとは無縁の料理だそうだ。

しかし、それでもアストランスは2007年に三つ星を獲得する(アガるね!!!!)。

その後英恵さんは、アストランスに働きたい旨を伝えたが、この時は空きがないと断られた。仕方ないと他の店で二年間働き、日本に帰国する英恵さん。もがきながら、日本でもフリーランスとして少しずつ仕事を得ていく。しかし英恵さんは、自分の技術がちゃんと向上しているのか、不安を覚えるようになった。

そしてもう一度、アストランスで働きたいという気持ちを思い出し、パリに向かうことを決意する。

しかし、相手は三つ星レストランだ。一回、働きたいという申し出を断られてもいる。さて、彼女はどうやって店にアプローチしたのか…?

 

続きはぜひ本書でお読みください!ここからの展開もアガるよ!!
料理って文化なんだなあっていうことを、しみじみ感じる話になってるの…!


たぶん、今はもう英恵さんはこの店では働かれていないのだと思うけど、一回は行ってみたいぜ、アストランス…!

Yukkiさんの話

彼は、ハイパーヨーヨーを趣味で始め、十代のうちに世界準優勝まで上り詰めたものの、そこからどうしていいかわからなくなってしまった人。
高校生の時、好きだった女の子とうまくいかず、自分の何かを変えようと街でヨーヨーで大道芸を始めたら(←川内さんも書いてらしたけど、そこで大道芸に行く発想がすごい)「お金を払う」と声をかけられることが増え仕事になっていったものの、これからずっとパフォーマンスで生きていくということに現実味は感じられずにいた。一芸入試で大学に入る?パントマイムの学校に行く?進路、どうしよう…。


そんなYukkiさんを気にかけてくれていた、野毛大道芸人実行委員会の大久保さんの一言で、彼の人生が変わる。
「それならフランスにあるサーカスの学校に行ったらどう?」

 フランスでは、この三十年ほどでサーカスは独自の進化をとげ、今ではピエロも、空中ブランコも、動物も出てこないショーや、たった一人しか出演者がいないサーカスすら存在する。それは「ヌーヴォー・シルク(現代サーカス)」と一括りにされる。前衛的なアーティストたちが、音楽や演劇、ダンスやアクロバットなど多様な要素を取り入れ、人間の身体能力、感性とワザを究極まで酷使したパフォーマンス。

『パリでメシを食う。』より引用


初めてフランスで本場のサーカスを見てみたYukkiさんは、衝撃を受け、涙を流した。

(ヌーヴォー・シルク、たぶんこういうのですね(↓)。人間の身体ってすごい…。)

youtu.be

 

その後、紆余曲折を経て、フランスの国立サーカス学校に入学したYukkiさん。

周りは馬術空中ブランコなど、サーカスのための専門的な技術をすでに持っている人ばかり。フランス語にも苦労し、つらい学校生活を送るものの、ヨーヨーの高い技術を周りに認められ、少しずつ順応していく。

(ここの話が「そんなことあるんかい!」の連続でとっても面白いのですが、初見で読んでいただいたほうがいいと思うので詳しくは割愛)

卒業した彼は、あちこちから声をかけられ、大人気のパフォーマーとなった。

 

…のだが。

彼のエピソードの後半は、ずっと暗い雰囲気が流れている。Yukkiさんは、こう語る。

今、行き詰ってます。日本や世界の大会で求められるのは技の難易度とスピード。でもフランスで求められるのは、表現力。だから、今の自分は何を表現したらいいのかわからなくなっちゃって……。技術はいくらでも伸ばせるんですよ。でも、今はそれを求めてないんです。技術だけでみたら、僕よりうまい人がうじゃうじゃいるんですよ。わー、こんなのできるんだ、とか思います。昔の自分はやっぱり難易度で勝負してた。だから昔の僕を知っている人には『前のほうがよかった。昔のYukkiに戻って欲しい』と言われることもある。でも、もう自分は戻る気はないです。僕はフランスを、そしてサーカスを選んだんです

『パリでメシを食う。』より引用


「表現する」ヨーヨー・アーティストの第一人者として、誰も知らない道を歩く彼の不安は、どれだけのものだろう。

それでも最後には、前を向いてふたたび舞台に立つYukkiさん。すごいなあ、かっこいい。彼のパフォーマンスの動画も貼っておく。

youtu.be

 

…と、今、この動画を貼るためにネットで検索かけてびっくりしたのだけど、なんと2012年に彼は事故で亡くなってしまったそう…。
川内さんの文章を読んでいるだけで、なんて繊細で優しそうな人なんだろう、と好きになってしまう魅力的な方だった。まだ20代だったそう。生のパフォーマンス、一度見てみたいと思っていたのに、悲しい。

この本の影響で、個人的「したいものリスト」の項目に「フランスでシルク・ヌーボーを見る」を追加したから、お会いしたことはないけど、Yukkiさんのことを思い出しながらいつかこの夢を叶えたいと思う。

彼の歩んだ人生はいつまでも消えないから、たくさんの人がこの本を読んでくれるといいな、とも思う。

本全体の話に戻って…

最後に、カメラマンのシュンさんという方の章で出てくる、彼が写真に添えたという言葉に感動したので、それも引用して記録しておく。


今回紹介したお二人のエピソードはあまりにも壮大だったけれど、もっと些細な一歩だってちゃんと人生のピースになるんだ、という気持ちを込めて。

日常とは、決して平凡という意味ではない

 

コンテンツ月記(令和四年、睦月)


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↑こちらはちょっと前にTwitterで話題になってた、キーワードを入れるとAIが絵を描いてくれるアプリ『Dream』による作品。どんなキーワードを入れたら強烈な絵ができるか?という遊びを恋人としてて、恋人が提案したキーワード「Ramen Emperor」を入れたら出てきたものだよ。顔っぽい部分がかなり怖い。

なんとなく、『金魚王国の崩壊』を思い出す仕上がり…。

 

…ということで本題!

読んだもの、観たものを、書きなぐりのメモで記録します。完読できてないものも、書きたいことがあったらメモします。すでに長めのレビューを書いてるものや書く予定のものは、基本的に除いてます(…と言いながら、ここで書いてる感想も割と長いんだけど)。
数ヶ月前に観たものと最近観たものが混在しており感想の鮮度になかなかムラがありますが…よろしくどうぞ…!


==評価基準(特に記載したいときだけ)==
\(^o^)/ 乾杯。愛。最高の毒なり薬。
φ(..) 特別賞(今後思い出すだろうシーン有等)
==ココカラ==

 

 

マンガ

大大大大好きな作品だから、今度じっくり感想書きたいんだけど、今Kindle Unlimitedに1,2巻が入ってるっぽいので(対象期間終わっちゃったらすみません)、取り急ぎ、今一押しの作品紹介から!

 

『瓜を破る(うりをわる)』という作品です!!

表紙から、ご都合主義エロ表現あったら嫌だなあ…と敬遠していたんだけど(端から見るとよさがよくわからない主人公のことになぜかゾッコンで、ラッキースケベ(見られる側)も嬉しいって思ってるっぽい女の子が出てくる、とか。ちゃんと背景が描かれてたら納得して読めるんだけど、登場人物の心模様が雑に扱われているエロ表現は…キャラクターだとしても人間が消費されているみたいでいやなんだよね…)全然そんなことはなかった。「性」は大きな柱として置かれている作品だけど、ちゃんと心とリンクしている表現がされていた。

 

30代で処女であることをコンプレックスに思ってる主人公のエピソードを中心に進むんだけど、彼女が働く会社のいろんな女の人の話も入ってて(仕事はできるけど自分を追い詰めて周りもきつくあたっちゃう人とか、子供が生まれたことで「お母さん」じゃない自分がいなくなっちゃった気がしてる人とか)、それぞれとてもいい。アナウンサーの宇垣美里さんが話されていた、「どんな人にも自分の地獄がある」って話を感じる内容。幸せそうに見えても、なんでも持ってるように見えても、みんないろいろあるよね…。そんなつらさがしっかり描かれてる中にも救いがいっぱいあって、疲れてるとき読むと元気がチャージされます…。

鍵谷さんってキャラのことが大大大大好きです…毎日鍵谷さんのことを考えてる(もはや恋)。もどかしいときめきを感じたい方はぜひ…ッ!2巻まで読んだら、続きが気になりすぎてたぶん買っちゃうから(←私です)、まずはそこまで読んでほしい!

 

=ここからいつもの形式の感想=

来世ではちゃんとします \(^o^)/

最近はヤンジャンのアプリをよく使っていて、その中で読み始めた作品。

セのつくお友達がたくさんいる桃ちゃんをはじめとする、なんとなく自己肯定感が低くて恋愛について悩んでいるアラサー男女の群像劇コメディ(?)。主に桃ちゃんが働いている映像プロダクション「スタジオデルタ」のキャラたちのエピソードが描かれる。

群像劇LOVERの私が太鼓判を押したい一作!
ドラマ化もされたようだけど、ドラマの方は観てない(観たい)


出てくる人はみんな、「ちゃんとして」ない。「ほんとうはこうしたほうがいいのに」って自分でわかってる方向に、なかなか舵が切れない。いろいろ経験してしまった大人ならではの葛藤、というか…探り合いというか、があってね…。
でも、そのちゃんとしてなさの根っこにあるものが丁寧に描かれるので、「ひどっ」と思うことがたくさんあるのと同時に「その気持ち、わかるよ…。みんな幸せになってほしい…」って感じちゃう。それでもみんな少しずつ変わっていくので、大人の成長物語に立ち会わせてもらっているような気持ちになる。

私は一緒に働いてる人たちが仲良くしてるところを眺めるのが好きなので(お店とかでそういう光景に出会うと嬉しい)、「スタジオデルタ」で働くみんなが話している回はいつもにこにこ読む。みんな仲良しで優しさを分け合っていてほっこりするのよ…。

(デルタは「労働条件は悪いけど、人間関係がすこぶるいい」職場で、学生時代そういうバイト先で働いてたことがあったから懐かしさもある)

あと、それぞれの人の人生の細かいエピソードが描かれるので、読んでいると今まで自分が触れてこなかった世界の知識が増えてく気がする…(どういう整形はお金がかかるのかとか、インコの生態についてとか)。

 

イジめてごっこ。φ(..) 

最初に読んだのはLINEマンガがきっかけだった。このタイトルでこの絵ってどんな話なのか…?と気になって。↓こういう話でした。

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大学生のゆかは、SM(攻められる側)に興味のある女性。しかしそんな自分が気持ち悪いと思い、ずっと誰にも自分の興味について話したことはなかった。しかしある日、年上の彼氏・まひろに、ひょんなことからこの興味がばれてしまう。彼にはもっと素敵な女性とつきあってほしいと考え、別れを切り出すゆか。しかし、まひろは「ゆかちゃんはそのままでいいよ」「おれが頑張っていいSになる」と言ってくれて…。
==


思っていた以上に「コミュニケーション」の話で面白かった。「自分には理解できない(or自分は興味がない)けど、相手が好きなものを知ろうとする」って、とんでもなく愛ですね…。
LINEマンガのコメント欄にもあったけど、Sってただ「冷たい」っていうんじゃだめで、相手の安全を守りながら、相手が本当にやめてほしいと思ったらすぐにそれが確認できる人じゃないと担えない役割(?)なんだな…。

 

ジェーンスーさんと二村ヒトシさんのこの対談↓のことを思い出したりもした。

 

wotopi.jp


作中、まひろさんがSMについて本等で勉強するくだりがあり、「色々調べたらセラピーみたいな役割のSMとか」もあると話していて、気になる。

 

 

ドキュメンタリー

食品産業に潜む腐敗

Twitterでおすすめだって紹介されてる人がいたので、アボカドのエピソード(シーズン2の「アボカド戦争」)だけ観た。

アボカドが流行して価格が高騰した結果、マフィアにいい金づるとして目をつけられてアボカド農家の方が誘拐されたり、過剰な栽培によって地域の水が枯れてしまったりしているということを、このドキュメンタリーで初めて知った。

それからアボカドを食べすぎないようにしようと思ってるんだけど(もともとそんなにしょっちゅう食べてるわけじゃないけど)、農家さんの仕事がなくなるのは良くないと思うし…うーん…どうすればいいんだろうなぁ…。

youtu.be

 

映画

ショーシャンクの空に φ(..) 

恋人に勧められて観る。 


昔ぼんやり記憶していた内容と全然違っていた…。「文化」を肯定する内容で、好きだったな。あと、切り取られる構図がいつもかっこよかった。

こういう話です↓

==
エリート銀行員だったアンディは、無実を主張するも、妻と浮気相手の男を殺した罪でショーシャンク刑務所に送られる。
刑務所の中では性的なものも含む暴力が横行しており、つらい日々を送るアンディだったが、レッドという囚人と少しずつ親しくなっていく。アンディはまた、刑務所の職員たちに前職の知識を生かして節税のヒントを与えたりする中で、刑務所の環境を改善するための提言を行える立場を手に入れる。とは言え、提言はいつも聞き入れられるわけではなく、アンディの知識を利用する職員も現れる。それでもアンディは、刑務所に「文化」を取り入れようと、飄々と手を動かしていたのだが…。
==

盗む以外に生きる方法がなかった若者や、出所したものの刑務所の外には親しい人が誰もいない高齢の元受刑者のエピソードなど、「一回道を踏み外したらもう終わりだよ」って社会の空気が漂う作品で、今の日本のムードと共通するものをいろいろ感じながら観た。アンディは「熱血」っていうよりかは飄々としてて何を考えているかわからないキャラなんだけど、そんなアンディが刑務所の中の生活に人間らしさを求めて少しずつ行動していく様子は、なんだかリアリティがあってよかったな。そして色気があったな…。チャーミングなシーンがたくさんあって、アンディのこととても好きになった。ラストもよかったなああ。


この間LINEマンガで読んだ作品『死役所』の4巻あたりでも近いテーマが描かれていたけど、

(『死役所』は、いろんな立場の人の死について描く(基本的に)オムニバス形式のマンガ。結末がほっこりで終わるときもブラックで終わるときもあり、その幅広さがいいなと思う。誰かにとって見えてる世界はやっぱりその人だけのものであって、他の誰かに見えてるものは全然違うかもよ?と匂わせてるところが好き)

罪を犯した人にとっても「衣食住」以外の生きる楽しみがあることは必要だと思う(なんだかすごく正義ぶった書きぶりになってしまったが)。「罪を犯さずとも生きていける環境にいられる」かどうかっていうのは、結構運次第だと思うから。どんな家に生まれても、「親ガチャ」って諦めないで生きていける社会にならない限り、罰だけが行きすぎていいことは何もないんじゃないかな…(刑務所の方が今の自分を取り巻く環境よりずっとましだと考える人は、少なくないと思うから、犯罪の種類にもよるけど厳罰化はあんまり抑止力にならないと思う…)。

全体的にはすーごく良かったんだけど、ここでもやっぱり女は軽く扱われてんのな!ということが気になった…。つくられた時代背景もあるかもしれないけども。

 

メッセージ

恋人に勧められて観る。

出てくるアイテム(?)がネット「でっかいばかうけ」と呼ばれていたことくらいしか知らなかったけど、思いの外静謐な雰囲気の作品だった。私が好きな時間帯の空がいっぱい出てきて気持ちよかった。

(でっかいばかうけと呼ばれていたブツ)↓


あらすじはこんな感じ↓
==
世界各地に、突然大きな宇宙船が現れた。その持ち主は、軟体動物のような見た目をした生物。煙幕のようなものでなにか言葉を伝えようとしているようだが、地球上に存在する言語ではないため意味が取れない。
優秀な言語学者であるルイーズは、自分たちの名前を伝えることから始め、この生物たちの伝えようとしていることを解明しようとするのだが…。
生物たちの目的は、いったい何なのか?

==


私は学生時代(一応)言語学を専攻していて文字論の授業も取っていたのだけど、文字っていうのは「速く書けること」と「ほかの文字と判別しやすいこと」とのバランスのせめぎあいでできてるらしい。生物たちが出してくる文字はものすごく複雑な形なんだけど、「手描き前提ってしばりがないと、こんなに難しい形の文字が使えるんだなあ」と思った…。

 

ネタバレになっちゃうからストーリーについて詳しくは書けないんだけど、時間の概念や「人生は本当に自分の選択でできているのか?」ということについて考えさせられる話だった(ということで、Kindle Unlimitedで↓の本をダウンロードしてみたが、全然読めていない…面白そうな本なのに…)

イスラム教の考え方とか、時制(過去形とか)がない言葉を話す文化にも通じるところがあるかもしれない…。

 

 

芸能界の裏事情×ミステリー=…?:マンガ『【推しの子】』の感想

次にくるマンガ大賞2021コミックス部門の1位を獲得したときにも結構話題になったと思うので、今更かい!感があるけれども…。
展開が速くて、キャラクターもかわいい面白いマンガなので、今日はこちらの感想をば。

(私はヤンジャンのアプリで読んでます!)


=冒頭のあらすじ=


宮崎県で産婦人科医として働く男・ゴローは、アイドルグループ「B小町」のエースで16歳の女の子・アイの大ファン。彼がアイのファンになったのは、研修医時代に担当した少女・さりなが彼女の熱狂的なファンだったからだ。しかし、アイが体調不良で活動を休止するというニュースが入り、ゴローは落ちこむ。

そんなある日、かなりお腹が大きくなった状態で初めて診察を受けるという、16歳の妊婦がやってきた。帽子を取ったその妊婦は、なんとアイ本人。父親が誰かは内緒で、出産することも公表しない、出産後はまたアイドル活動を続けると言うアイ。最初はショックを受けるゴローであったが、彼女といろいろな話をする中で、アイの出産を心から応援しようと覚悟を決める。しかし、いよいよ出産当日に事件が起こって…。

==

序盤も序盤で衝撃的な展開が2つも起こるので、何を書いてもネタバレになってしまいそうだからここから先については書くのが難しいのだけど…。令和の芸能界の裏側を覗き見ることができるエンタメ要素と、作中発生するある事件の犯人探しのミステリー要素が掛け合わされて、感情をぐいぐい動かされる。これは賞獲るわ!納得。

特に芸能界の裏事情についての描写に、興味深いところがたくさんある(もちろん、どこまで現実に即しているかはわからないけど)。恋愛リアリティ番組はどのように撮影された素材を「演出」するのか(※)、有名な大所帯系アイドルグループに入った子ははたして安泰なのか?などなど…。


(※これに関連して、ちょっと脱線。『バチェラー4』、めちゃくちゃ面白かったけど、参加者の松本妃奈子さんが彼女のTwitterで問題点として指摘していたところ(参加女性は痩せるようにスタッフから言われ続ける、予告用の参加者自己紹介動画で誹謗中傷が集まりそうな編集がわざとされ本人に確認なく公開される、カウンセリングを受けられると説明があったがその場の会話をスタッフが聞いており秘密は守られない…等)はぜひ今後直してほしい…どうしたら直してもらえるんだろう?)


あれこれ綴られる裏事情の中でとりわけ印象的だったのは、マンガ原作の作品がドラマや舞台になったとき「思ってたの違う!」ってなりがちなのはなぜなのか?っていうエピソード。「あちゃー」と思う作品の中でも、なるべく良いものを創ろうと努力している人がいるんだな…。マンガを舞台用の脚本にする時、どういう工夫が必要なのか?って話も面白かった。
『【推しの子】』を読んだ後は、たぶん他のエンタメを見る目が変わると思う。

コミカルなテイストがベースだけど、時々切ない描写が差し込まれるところも飽きないポイント。出てくるキャラクターがみんな魅力的なのです…。最初に出てきた時「ひどいわ~」と思ってたキャラクターが、あることをきっかけに、再会したとき心を入れ替えてすごく成長していたり…。それぞれの立場に、それぞれの苦しみと喜びがあることを描こうとしているところが好き。

 

でも時々気になるところもあるのよ…。例えば、「結婚してない大人は一人前じゃないいじり」がたびたびあること。こういうギャグの古さがなかったら、ほんとにいいマンガなんだけどなあ。

 

 

==以下は、ほとんど私の備忘録ですが、ミステリー要素について、現時点(第67話まで読んだところ)で気になってるポイントメモです。もう読んだ人向けなので、ネタバレ注意!==

・アクアマリンやルビーという名づけについて。
いろいろな宝石がある中、なぜあえて「アクアマリン」なのか?誕生石が関係している?←新生B小町のメンバーカラーも何か関係がある?
※ちなみに、アイや子供たちの目に入っている星のデザインは、おそらくスター効果(宝石に星のような光の筋が入る効果)を参考にしたものだと思う。

 

ja.wikipedia.org


・途中から、黒い背景でドキュメンタリー風に登場人物たちが語るシーンが挿入されるようになるが、このドキュメンタリーを撮っている人は誰なのか?(最初、アクアかと思っていたけどどうやら違いそうなので…)何を目的にして撮影しているのか?いつ撮影されているのか?

・アイがパスワードに使っていた数字の意味は何か?
・アイが所属していたグループ「B小町」の由来は何か?

・なぜゴローの名字は出てこないのか?

・ゴローの遺体がまだ発見されていない(っぽい)のはなぜか?

 

自分の妄想に恋すること、あるいは思い人B´について:『やれたかも委員会』4巻の感想

もう1月も3分の1が終わらんとしていますが、あけましておめでとうございます。

栗きんとん、ヨーグルトに入れるとおいしいことを発見したけそです。
今年もよろしくお願いいたします!

 

週に1回くらいはブログを更新したいと思っているのに、なかなかできずにすみません。今年は、2週間に1回くらいは更新していきたいです…(貴重な読者の方へのメッセージ)。月に1回くらいご来訪いただけたら嬉しいです…。

書きたいこと・おすすめしたいものがほんとにいろいろあるんですが、今日は前に書いて眠ってた文章のお蔵出しを。ドラマ化もされた漫画、『やれたかも委員会』4巻の感想です。ちなみに、Kindle Unlimitedの対象です。
今日は重いものは読めないけど何か読みたい…って時におすすめの、コメディタッチの漫画。

 

 

「もし、自分があの瞬間に違う行動を取っていたら、いい雰囲気だったあの人と一線超えられていたかもしれない…?」
…という思い出を参加者が語り、謎の組織・「やれたかも委員会」の3名がそのエピソードに「やれた」「やれたとは言えない」いずれかの札を上げてそのエピソードを判定するという、ちょっとバラエティ番組風なシステムになっている漫画シリーズの4巻です。

 


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(↑『やれたかも委員会』1巻より引用。判定タイムはこんな感じです)


読者からの体験談を募ったりしながら綴られる各エピソードは、ディテールが妙にリアルで、臨場感のあるどきどき(と、くすくす)を楽しむことができます。以下は、『やれたかも委員会』第1巻のcase004からの引用。f:id:arisam_queso:20220109182223j:image


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↑こういう感じで、端から見たら滑稽だけど脳内会議を開いている本人はめちゃくちゃ必死!っていう描写が多いのです。あるよね!!そういう瞬間!

 

他の巻ではオムニバス形式で短いエピソードが複数掲載されているのですが、4巻は寺河内という男性の「やれたかも」エピソードを1冊じっくり描いてます。

以下、後半にちょっとネタバレもあるので、気になる方は今の段階でぜひ漫画へ進んでみてください…。


=あらすじ=

中高男子校で育った寺河内は、これまで女性と言えばほとんど親族としか話したことがなく、大学では男女混合のサークルに入って彼女を作りたいと考えていました。
そんな彼が大学で入ったスキューバダイビングサークルは練習がとても厳しいTHE体育会系な場所でしたが、それでも頑張れたのは1年上の女性・日野先輩に憧れていたから。しかし、日野先輩はすでに同じサークルの筧先輩という彼氏持ち。傷つきながらも、なんとか日野先輩を好きだった気持ちを忘れようと一層サークル活動に打ち込んでいた寺河内でしたが、ここで事件が起きます。なんと、サークル活動に熱中しすぎた日野先輩が留年し、寺河内と同じ授業を受けることになったのです。
一緒に勉強したりして距離が縮まる二人。最近彼氏とはどうなのか尋ねると、「まー長いからねー 最初の頃みたいにはいかないよねー」と、あまりうまく行っていないことを匂わせる日野先輩。勇気を振り絞った寺河内は、彼女をデートに誘うことにするのですが…。

==

 

この巻ならではのお気に入りポイントは、主人公の寺河内が途中で考える「『好き』という気持ちはどこにあるんだろう?」という思考の内容です。寺河内は、こう語ります。

ある男AがBという女の子を好きだとします

〔中略〕

僕のような片想いの場合 AはBのことが好きと言いつつも 実はAの頭の中で作り上げた自分にとって都合の良いBそっくりのB いわばB´(ビーダッシュ)のことが好きなのです

(『やれたかも委員会』4巻より引用)


作中、このことが何気なく語られますが、恋愛の多くのすれ違いは彼が考えた通り、「自分が勝手に打ち立てた『頭の中で練り上げた相手像』と本当の生身の相手が違っていたこと」から生じているんじゃないでしょうか。少なくとも25歳くらいまでの私は、その時々の恋人を「好き」って思いながら、相手の(自分にとって)都合が悪いところをちゃんと見ようとしてませんでした。例えば相手のコンプレックスを表面的にしかわかっていなかったりとか…(今だって、交際相手のことちゃんと見られてるとは言えない気がしますが…)。

漫画の話に戻りまして。
『やれたかも委員会』はタイトルにある通り、全てが失恋のエピソードです(もしかしたらこれからまた何かあるかも?と感じさせるパターンはありますが)。ということで、寺河内もやっぱり最終的には失恋してしまいます。しかし、学生時代、せっかくここまで片想いの秘密(?)に迫っていた寺河内、やれたかも委員会でエピソードを披露している40歳になった現在でも、「もしかしたら付き合える未来もあったんじゃないか?」と考えていました(日野先輩の「きれいなだけじゃない面」には全然目を向けてないっていうのに!)。

ここで光るのが、参加者がただ思い出エピソードを披露するだけではなく、3人の委員がそのエピソードについて判定を下すという、『やれたかも委員会』のシステムです。3人の委員のうち一人だけ女性(月満子氏。財団法人ミックステープという謎の団体の代表をしている)がいるのですが、このシリーズのほとんどのエピソードで「やれたとは言えない」の札を上げて参加者の都合のいい妄想を砕いてきた彼女、やっぱり今回も「やれたとは言えない」の札を上げます。月はその理由として、寺河内が語る日野先輩像は「あの子は清く美しいという『決めつけ』」があり、「あなたの求める日野先輩は実際の日野先輩ではない」から、もし付き合えていたとしても、案外あなたのほうから別れていたのでは?と指摘します。

 

初期の『やれたかも委員会』は、ちょっと女性を神格化しすぎてる節があって「うーん…」と思うところもあったんですが、徐々に、女性だって神じゃないから!しょうもないとこたくさんあるから!性欲もあるから!っていうのが描かれる割合が増えてきて、嬉しい限りです(まあ、まだ「ちょっとこのエピソードはひどいな…」と思うこともあるんだけど…今の時代にラブコメを描くのってすごく難しいことですね…(←これは、昔が良かったという意味ではありません、あくまで))。

4巻について言えば、どうしようもなく好きだった相手と付き合えなかったことで長く苦しんでいるすべての方に響く内容になってると思います。時々古傷がうずくような方も、ぜひ。

 

 

よいお年を!

年内に到達したい目標がありイラストの登録を頑張っていたところ、iPadがフリーズして沈黙して終わる今年でした…(涙)たった2つしかない商売道具なのに〜 

悲しすぎてすでに飲んでいる、大晦日の夕方です。

 

来年はもう少し収入に余裕ができて、ブログももっと投稿できたらいいな…(というか、そうじゃないと生きていけない)

 

イラストは、近所に住んでる猫ちゃんです。

(たぶん飼い猫だと思うけど、柄から勝手に「牛ちゃん」と呼んでいる)

 

まだまだコロナ禍は終わりが見えませんが、皆様お体大切にお過ごしください!よいお年を〜!


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コンテンツ月記(令和三年、師走)

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これは2年前にバンコクで撮った写真。無理やり座らされている大きいぬいぐるみに弱い

読んだもの、観たものを、書きなぐりのメモで記録します。完読できてないものも、書きたいことがあったらメモします。

すでに長めのレビューを書いてるものや書く予定のものは、基本的に除いてます(…と言いながら、ここで書いてる感想も割と長いんだけど)。

いろいろ読んだり観たりしてるのに…全然書けない…。少なめだけど、とりあえずまとまったところまで。

 

==評価基準(特に記載したいときだけ)==

\(^o^)/ 乾杯。愛。最高の毒なり薬。

φ(..) 特別賞(今後思い出すだろうシーン有等)

==ココカラ==

 

 

映画

バッド・ジーニアス φ(..)

マンガ『付き合ってあげてもいいかな』の作者・たみふるさんが勧められていたので、

 

urasunday.com

(レビューが書けてないんだけど、つきかなもめちゃくちゃおもしろいよー。ごりごりに心が削られるタイプの群像劇。群像劇好きの私も(?)推薦します!!)


アマプラで観る。ごりごりのエンタメ作品の中に社会派メッセージが練り込まれてて、かなり好きなバランスだった。
※以下、若干ネタバレ入ります!

 

タイ・バンコク。リン (チュティモン・ジョンジャルーンスックジン)は小学1年生の頃から成績はずっとオールA、中学でも常に首席の頭脳明晰な天才女子高生だ。教師である父親との父子家庭で、決して裕福とはいえない生活を送っているリンだったが、優秀な成績が評価されたことで、晴れて国内有数の進学校に授業料の全額免除とランチの無償提供つきの特待奨学生として転入を果たす。転入初日にリンは、勉強はてんで出来ないけれど天真爛漫な明るい性格で女優を目指しているグレース(イッサヤー・ホースワン)と友達になり、勉強を教えることに。

amazonプライムビデオの作品紹介より引用)

 

ここは最初のとっかかりなのでネタバレしちゃうと、主人公のリンはその後、ある方法でクラスメイトに自分の回答を教える代わりに報酬を得るようになり、その規模がどんどん大きくなっていって後戻りできなくなる。このビジネスにお金を出すのは、「お金持ちだけど勉強ができない子供たち」。最初、「けっ!結局お金持ちは全部手に入れちゃうのが世の中だよな!」と斜に構えつつ観ていたが、それだけで終わらなかった。「カンニングする子供を怒っている大人たちは、本当に彼らに物申せる立場なのか?」って疑問を提示してるところも好きだった。本当に「バッド」なのは果たして誰なのか?

 

とにかく見どころなのはカンニングのシーン。テストのシーンって、ただ撮るだけだと答案書いてる人がいっぱいいるだけだからそんなに盛り上げられないと思うんだけど、まさかの動的なシーンになっている。

(学校のテスト中、先生の見回りがあまりにも雑(それだったら誰でもカンニングできるわ!ってゆるさ)なのはちょっと気になったが…タイでは結構あることなのかな…?)

 

キャラクターとしては、リンと同じく経済的にはあまり恵まれていないが優秀な奨学生・バンクがかなり好きだった。真面目にやるほど損をする世界ってほんとむかつくよな!!

 

あと、ひたすらリンのビジュアルが好き!目ぱっちり系女子ではなく、クールな目の女子を主役に抜擢した人、ありがとう!アジア人の顔のいろんな素敵さを肯定していきたい私はすごくハッピーだった!

 

バッド・ジーニアス 危険な天才たち(字幕版)

バッド・ジーニアス 危険な天才たち(字幕版)

  • チュティモン・ジョンジャルーンスックジン
Amazon

 

マンガ

 

千年ダーリン

1980年代、千年谷……

 

アーケード街の一番星・束ノ間一平が、

仮初時計店の店主・仮初銀色と出会う。

そう図られていたかのように出会ってしまう。

 

二人の男に結ばれた運命の糸の物語。

 

死んだはずなのに改造人間として蘇って怪人とかロボットと戦います。

(トーチの公式サイトより引用)

 

私は1989年生まれなのだけれど、とにかく80年代っぽいものが大好き。

このマンガは、令和に描かれているとは思えないほど全てが昭和!

ギャグも、キャラクターデザインも、扱われるモチーフも(←キョンシーとか化石発掘とかね…)。私は特に敵キャラのデザインが好き!!みて!!!

 

 

令和の時代にこの空気を現在進行形で楽しめるのが嬉しくて、読んでいる。

とにかく、絵がいいんですわ~~。

 

 

(私はこの絵をTwitterで拝見して、本作を読み始めた)

 

ストーリーは今のところあんまり目新しさはないように思うのだけれど、このマンガに関してはそこすら特長になってる気がする。言葉のセンスもかっこいいよ!考えるより感じるタイプのマンガだと思う。

 

試し読み↓

to-ti.in

 

コミックスで一気読み派の方向けに、購入ページのリンクも一応↓

 

 

 

戯けてルネサンス \(^o^)/

タイトルは「おどけて」と読む。

 

共学化して間もない元女子高に入学した再名生くん。夢に描いた「普通」の高校生になろうと決意するも過去に苛められ慣れすぎた彼の捻じれた心に手を差し伸べたのは出会ったクラスメート達だった!?

Amazonの商品紹介より引用)

 

こちらも、ちょっと懐かしい雰囲気の絵柄で、そこが好きでLINEマンガで読み始めた。でもそのあとどうしても続きが気になって、買ってしまった。私の勘は間違ってなかった、最高だった。
3巻でまとまってるけど、ほんとはもっと長く読みたかった。同級生のイルの話とか(回収されてない伏線があると感じるから、作者の山本中学さん、ほんとはもっと描きたかったんじゃないかなあ)。短い中に、大切な感情と言葉がいっぱい詰まっていて大好きな作品。

私は不器用な人がそれでもなんとか希望を探して生きていく話が好きなんだけど(自分自身がとてつもなく不器用だからだと思う)、主人公の再名生(さいみょう)くんや周りの人の不器用さがあまりにも生々しく痛くて、毎回心を全部持っていかれる。

 

中学では周りに気持ち悪がられることが多く登校拒否だった再名生(さいみょう)くん。プリント1枚を前の席の人に渡すのでも、「指でつついて呼んだら気持ち悪いと思われるかな…」と心配になり、どうするかさんざん迷う(結局シャーペンでつつくことにする再名生くん、かわいい)。
そんな再名生くん、やっぱり高校でも入学早々ちょっとやらかしてしまう。でも高校では、落ち込んでいた先にクラスメイトに「でも再名生くんって面白いよね。それがわからない人たち、センスないね」というようなことを言ってもらえたのだった。こちらまで救われる気持ちになるシーン…。

一生懸命生きていたら、どうしても気持ち悪いところが出てきちゃうのが人間なんだと思う。置かれた場所でなんて、咲かなくていい。自分の変なところを楽しんでくれる人がいる場所に行ったほうがいい。

 

3巻にすべてがめーちゃくちゃ好みの男の子が出てきて、自分が大学生だったら間違いなくこの人に告白してるな!と思いながら彼の出演シーンを10回くらい読み直した。ほんとに好き、大好き。彼のどこに心惹かれるかってことで、一本記事を書きたいくらいだ。彼が出てくるエピソードだけ別の漫画みたいに独立してたから、山本さん、描いてるうちにこういうテーマの方に焦点絞りたくなって連載を終えた説もある…か…?(大きなところでは、共通してるテーマだと思うけど)

 

 

一人っ子政策で失った「過去」を探して:『ワタシが"私"を見つけるまで』

Netflixで、ドキュメンタリー『ワタシが"私"を見つけるまで』を観た。

 

www.netflix.com


中国の一人っ子政策で親に手放され、施設で育った後に外国で養子として育った女の子たちが、家系図を研究する女性の助けを得て、自分の親を探しに行くという内容の作品。それぞれの人生の重要なシーンに立ち会わせてもらったような…ずっしりとした気持ちが残る作品だった。

一人っ子政策の下で生まれた女の子たちは、様々な理由から親に手放され、施設で育って、アメリカに渡っていった。今の家族は自分のことを愛してくれている。でも、自分の人生の最初の部分がぽっかり抜けているような気持ちになったり、「私は捨てられた子供なんだ」とどこかで自分を肯定できなかったりしている。そんな中、「もし実の親に会ってみたいと思うなら、探すことができる」という研究者の方が現れる。

研究者の方が、女の子たちの赤ちゃん時代の写真と現在の写真を中国のネットに載せて「この人を知っていたら連絡ください」と呼びかけると、結構情報が集まる(←ということに驚いた)。その後、「もしかしたら、私たちの子供かも」と言ってきた人の唾液を採集し、DNAが一致するかどうかを調べるのだが…。「この人は実親かも」という人が現れたとき、自分の感情を表すより先に養親の顔を窺う女の子もいて。
(そうだよね。「実の親に会いたい」っていう気持ちを素直に表現することは、養親を傷つけちゃうような気もするよね…)

 

このドキュメンタリーを観て初めて知ったのは、「一人っ子政策の下で複数名子供を産んだ人の中には、無理やり(二人目以降の)子供を連れていかれてしまった人もいる」ということ。映像の中では、「生まれてしばらくした後、警察に子供が連れ去られた」と話している人もいた。女の子たちの中には「私は親に捨てられたのかな」って思って不安になっている子もいたけど、ルーツを探る旅の中で「たぶんほとんどの人は嫌々子供を手放したんだ」ということを知る。子供にとっても親にとっても、悲しい制度だね…。

また、親に手放された子供の多くは女の子だったということも、このドキュメンタリーで初めて知った。二人目以降の子供も、罰金を払えば自分たちの手で育てることができたらしいのだけれど、女の子だと手放されることが多かったのだという。女の子たちの旅の手助けをした研究者の方自身が、親に手放されそうになっていたそうで(祖父母が止めて免れたそう)、「育ててはもらったけれど、父親と接する中で兄の方が優先されていると感じることは多かった」というようなことを話していたのが印象的だった。
だから、彼女は女の子たちの気持ちのすぐそばに寄り添うことができたんだろうな。彼女にとっても、女の子たちと同じ時間を過ごすことが癒しになっていたのだと思う。たとえ一緒に過ごす時間が短くても、痛みを分け合った人たちの間には強い繋がりができるから。そういう信頼関係を築いた者同士が交わす笑顔って、すごく強くて素敵だよな…。…そう、そうなの!観る前にはまったく予想していなかったけど、これは「シスターフッド」の作品でもあった。

 

「政府や自治体の大きな力が取りこぼしたり見放したりした存在をケアしている人が、世界のどこにでもいるんだね…」というのを感じるシーンがたくさんあって、それにもじーんとした(個人の努力だけでは限界があるから、政府や自治体もちゃんとしてくれ~とも同時に思うけど)。

特に、女の子たちを施設で育てていた保育士さんが(一度に何十人もの子供をみていたこともあったのに)それぞれの女の子の小さいときの様子を覚えていて、心から再会を喜んでいたシーンに感動した。かつて施設にいた看護師さんが、「自分が医者だったら子供たちに注射も打てるのに」と思ってついに医学部に進んだって話にも。こんなにも他者に心を分けられる人がいるんだなあ…!

 

マンガなどではよく、子供を「あんたは橋の下で拾ってきた子供だからね」とからかうというシーンが出てくるけれど、本当にそうやって拾われてきた女の子たちの複雑な気持ちを本作で観て、もうこういうジョークは言えないなあ、と思った。「あなたは、このあたりで拾われたの。きっとあなたの親御さんは、朝、通勤する人が多い時間帯を選んで、場所も人がたくさん通るところにしたんだと思う」というような話を聞く女の子たち、どんな気持ちだったんだろう。親には親の事情があったんだってわかったあとでも、それを聞くのはつらいことだったろうな…。

 

私は、日本の(というかアジアの?)血縁を重視する感じがちょっと怖くて苦手なのだけど(血縁関係かどうかよりも、互いを尊重できるかどうかの方が大切だと思う)、「自分と血を分けた人で、自分と運命をともにしたかもしれない人が、まったくの他人として世界のどこかに暮らしている」ことを知らされたら、やっぱりその人(たち)を探したくなるかもしれないな。

 

しかし、せっかくいい作品なのに、邦題がよくない!
彼女たちは自分探しをするために中国へ向かったわけじゃないから(どちらかというと、自分の土台を確認するために行ったという感じ)、ちょっと焦点がずれてると感じるぜ…。同じ読みのタイトルのラブコメがあるので、検索にもヒットしにくくなってるし…。

 

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