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けそのブログだよ

自分自身の外に出た先の世界:『パリでメシを食う。』の感想

やっと確定申告が終わった!
…ことで抜け殻のようになってしまっているので、ブログを書いていくよ~。
(確定申告の作業をしてた日々はあまりにも気力が奪われて他の仕事が何もできなくて、映画をたくさん観たので、書きたい感想がたまっている)

今日は、本『パリでメシを食う。』の紹介。

 

Kindle Unlimitedで読みかけている本(つまりまだ読破できてない)なのだけど、ものすごく良い本だったので、特にUnlimited入ってる人に早めにおすすめすべく感想を書く。
(と言いつつ、書いてるうちに対象期間終わっちゃってたらごめんなさい!)

著者の川内有緒さんが、パリで仕事してご飯食べてる日本人複数名に、今に至った経緯を聞いて、まとめた本。私は人の人生の話を聞くのが好きで、それはドラマよりよっぽどドラマだよ!ってことがたくさん聞けて面白いからなんだけど、そういう「よっぽどドラマ」が詰まっている本。どの人の話も映画になりそうなんだよね…。パリって、日本だといまだに「おしゃれな街」イメージが強い(気がする)けど、パリの意地悪なところの話も存分に書いてあって、フェアだと思う。

(パリの良いとこ・うーんなとこについては、じゃんぽ~る西さんのマンガでもいろいろ描いてある。こちらの作品↓とか)


びっくりするような速度で人生を切り拓く人って、大抵「多少ハッタリかまして、あとで自分の発言に追いつけるだけの膨大な努力をする」人だよなーと常々思ってるんだけど、そのハッタリのスケールが大きい人が多くて、読んでるこっちがハラハラしどおしだった。その一方で、特に「これをやるぞ!」ってつもりじゃなかったんだけど、とりあえず足を踏み入れてみたらそっちの世界にどんどん引っ張られていった人の話も載っていた。

両者に共通しているのは、自分の外に出ることを(怖くても)やってみてるってことだと思う。私が好きな、スペインの哲学者のオルテガ・イ・ガセットの言葉、「幸せとは自ら自身の外に出ることである」を思い出す。「外に出る」って、必ずしも「お金と時間をかけて大きなことをする」って意味じゃなくて、自分にできるかできないかわからないこと、小さいことでもいいからそういうことを、「もしかしたらできるかもしれない」と信じてみてやってみることかな、と思う。

今まで私が読んだところで特に好きだったのは、三つ星レストランを目指した英恵さんの話と、ヨーヨーアーティストとしてフランスのサーカスに挑戦したYukkiさんの話。


英恵さんの話

彼女の話が面白かったのは、「パリの星付きレストラン界のダークホース×料理人界のダークホース」という、「絶対この店&この人には伸び伸びと活躍してほしい!!」と思う要素がそろっていたからだと思う。いろんな戦い方があるのだ、と勇気づけられる章だった。

もともとグラフィックデザイナーとして働いていたが、三十歳を目前にして「二年くらい料理の世界に浸ってみたい」と、パリに留学した英恵さん(すごい)。店員に横柄な態度を取られ、警察に薬やってる?と疑われ、料理学校の研修先で人種差別に遭い、夢見ていたパリ生活と程遠い思いばかりして暗い気持ちになっていた。

しかしある日、一人の料理人に出会って衝撃を受ける。彼は「世界には色々な食材があり、いつでも発見がある。組み合わせは自由自在で、味の創造は無限大」という考えを持つ人で、フレンチの枠を超えた、自由で新しい料理を作っていた。旅先で出会った面白い食材で料理をしたいと考えていた英恵さんは、「自分がしたいことを実現している人がいる」と感動。彼の店「アストランス」で働きたいと野望を抱く。


そんな店・アストランスは、フランス料理の店として異色の存在だった。
開店後半年でミシュランの一つ星を獲得し、五年後に二つ星を取ったが、三つ星までは無理だろうと言われていた。

理由その一。三つ星を得るには料理だけじゃだめだと考えられていたこと。
大きなダイニングホール、素晴らしい食器、アンティークの調度品。
多くの三つ星レストランが備えているゴージャスな環境を、アストランスは持っていない。十組程度のお客さんでいっぱいにある小さな店で、カジュアルな雰囲気なのだ。店の前の住人が「これおいしそうだから、使ってみて」と自宅の花を摘んで持ってきたのをコースに使ったりもする(!)。

理由その二。アストランスの料理はシンプルで派手さがないこと。
英恵さんは「アストランスが大切にすることは、旬の素材を、一番適した方法で調理すること。調理することで、その素材以上のおいしさを引き出すこと。ある意味で和食に近い料理ですね」と語る。フレンチと言えば多くの人が頭に浮かべるような、こってりしたバターやクリームソース使いとは無縁の料理だそうだ。

しかし、それでもアストランスは2007年に三つ星を獲得する(アガるね!!!!)。

その後英恵さんは、アストランスに働きたい旨を伝えたが、この時は空きがないと断られた。仕方ないと他の店で二年間働き、日本に帰国する英恵さん。もがきながら、日本でもフリーランスとして少しずつ仕事を得ていく。しかし英恵さんは、自分の技術がちゃんと向上しているのか、不安を覚えるようになった。

そしてもう一度、アストランスで働きたいという気持ちを思い出し、パリに向かうことを決意する。

しかし、相手は三つ星レストランだ。一回、働きたいという申し出を断られてもいる。さて、彼女はどうやって店にアプローチしたのか…?

 

続きはぜひ本書でお読みください!ここからの展開もアガるよ!!
料理って文化なんだなあっていうことを、しみじみ感じる話になってるの…!


たぶん、今はもう英恵さんはこの店では働かれていないのだと思うけど、一回は行ってみたいぜ、アストランス…!

Yukkiさんの話

彼は、ハイパーヨーヨーを趣味で始め、十代のうちに世界準優勝まで上り詰めたものの、そこからどうしていいかわからなくなってしまった人。
高校生の時、好きだった女の子とうまくいかず、自分の何かを変えようと街でヨーヨーで大道芸を始めたら(←川内さんも書いてらしたけど、そこで大道芸に行く発想がすごい)「お金を払う」と声をかけられることが増え仕事になっていったものの、これからずっとパフォーマンスで生きていくということに現実味は感じられずにいた。一芸入試で大学に入る?パントマイムの学校に行く?進路、どうしよう…。


そんなYukkiさんを気にかけてくれていた、野毛大道芸人実行委員会の大久保さんの一言で、彼の人生が変わる。
「それならフランスにあるサーカスの学校に行ったらどう?」

 フランスでは、この三十年ほどでサーカスは独自の進化をとげ、今ではピエロも、空中ブランコも、動物も出てこないショーや、たった一人しか出演者がいないサーカスすら存在する。それは「ヌーヴォー・シルク(現代サーカス)」と一括りにされる。前衛的なアーティストたちが、音楽や演劇、ダンスやアクロバットなど多様な要素を取り入れ、人間の身体能力、感性とワザを究極まで酷使したパフォーマンス。

『パリでメシを食う。』より引用


初めてフランスで本場のサーカスを見てみたYukkiさんは、衝撃を受け、涙を流した。

(ヌーヴォー・シルク、たぶんこういうのですね(↓)。人間の身体ってすごい…。)

youtu.be

 

その後、紆余曲折を経て、フランスの国立サーカス学校に入学したYukkiさん。

周りは馬術空中ブランコなど、サーカスのための専門的な技術をすでに持っている人ばかり。フランス語にも苦労し、つらい学校生活を送るものの、ヨーヨーの高い技術を周りに認められ、少しずつ順応していく。

(ここの話が「そんなことあるんかい!」の連続でとっても面白いのですが、初見で読んでいただいたほうがいいと思うので詳しくは割愛)

卒業した彼は、あちこちから声をかけられ、大人気のパフォーマーとなった。

 

…のだが。

彼のエピソードの後半は、ずっと暗い雰囲気が流れている。Yukkiさんは、こう語る。

今、行き詰ってます。日本や世界の大会で求められるのは技の難易度とスピード。でもフランスで求められるのは、表現力。だから、今の自分は何を表現したらいいのかわからなくなっちゃって……。技術はいくらでも伸ばせるんですよ。でも、今はそれを求めてないんです。技術だけでみたら、僕よりうまい人がうじゃうじゃいるんですよ。わー、こんなのできるんだ、とか思います。昔の自分はやっぱり難易度で勝負してた。だから昔の僕を知っている人には『前のほうがよかった。昔のYukkiに戻って欲しい』と言われることもある。でも、もう自分は戻る気はないです。僕はフランスを、そしてサーカスを選んだんです

『パリでメシを食う。』より引用


「表現する」ヨーヨー・アーティストの第一人者として、誰も知らない道を歩く彼の不安は、どれだけのものだろう。

それでも最後には、前を向いてふたたび舞台に立つYukkiさん。すごいなあ、かっこいい。彼のパフォーマンスの動画も貼っておく。

youtu.be

 

…と、今、この動画を貼るためにネットで検索かけてびっくりしたのだけど、なんと2012年に彼は事故で亡くなってしまったそう…。
川内さんの文章を読んでいるだけで、なんて繊細で優しそうな人なんだろう、と好きになってしまう魅力的な方だった。まだ20代だったそう。生のパフォーマンス、一度見てみたいと思っていたのに、悲しい。

この本の影響で、個人的「したいものリスト」の項目に「フランスでシルク・ヌーボーを見る」を追加したから、お会いしたことはないけど、Yukkiさんのことを思い出しながらいつかこの夢を叶えたいと思う。

彼の歩んだ人生はいつまでも消えないから、たくさんの人がこの本を読んでくれるといいな、とも思う。

本全体の話に戻って…

最後に、カメラマンのシュンさんという方の章で出てくる、彼が写真に添えたという言葉に感動したので、それも引用して記録しておく。


今回紹介したお二人のエピソードはあまりにも壮大だったけれど、もっと些細な一歩だってちゃんと人生のピースになるんだ、という気持ちを込めて。

日常とは、決して平凡という意味ではない