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コンテンツ月記(2026年、1月)

ハーブスと私 ― HARBS誕生物語


ポッドキャストで詳しく紹介していない映画・漫画・本の話などをするコーナーになりつつある、コンテンツ月記、2026年最初の更新です。
今回は、短めに読める漫画2本と、実録本1冊を紹介します。

【漫画】私とおばあちゃんの結婚式

弟の進学必要を集めるために、親が結納金をあてにして、知らない年上の男性と結婚することになった17歳の女性・「私」。

弟の進学パーティーで、認知症のおばあちゃんに再会するも、おばあちゃんは「私」のことを若いころに行方不明となったおじいちゃんと間違えて、「結婚式をしよう」と嬉しそうに話しかけてくるのだが…というお話。

著者の下川林さんは中国ご出身の方とのことで、おそらくこの作品の舞台も中国なんだけど、一般的に日本以上に親が結婚に介入してくる中国の人たちのつらさを思いながら読んだ。

繊細な背景や衣装への描きこみが、物語の雰囲気にぴったり。
まるで彫刻のようにペンが入れられているから、その場の影の深さや空気の重さまで伝わってくるよう。

comic-days.com

下川さんの作品は『囍(ダブルジョイ)』も読んだんだけど、その衣装を身に付ける人が喜んでいようがいなかろうがめでたい雰囲気をつくりあげてしまう結婚衣装に対して、下川さんは怒りもこめながら美しく描いている気がする。
結婚や「家」が、たびたび個人(特に女性)の自由な意志を踏み潰してくることについて怒っている人には、どちらの作品もおすすめ。

comic-days.com

下川さんは2025年時点では東京工芸大学大学院に所属しておられたようで、大学のサイトで他の作品も紹介されていた。他の作品も読んでみたい。

blog.t-kougei.ac.jp

【漫画】岩毬山大観光ホテル

旅好きの主人公が今回予約した宿は、自ら部屋の増改築を繰り返して、中に入った人を決して外に出そうとしなくなっていた…というファンタジックな話。
あらすじだけだと怖い感じがするかもしれないけど、すごくかわいくて楽しい作品だった。しかし、もうこういう、オーベルジュとか旅館みたいな敷居の高さがない、中産階級もある程度豊かだったころの日本が生みだした「宿」は滅びていく一方な気もしているので、悲しさもあった。

修学旅行とか、部活の合宿とか、そういうときに利用した系の宿…。ゲームコーナーとマッサージチェアーがあった、宿…。

「津村さんの作品は、漫画じゃなくイラストで見たことがあったよなー」と思いつつ読んでいたんだけど、デザイン的な喜びも高くてうきうきした。懐かしいフォントとか絶妙なゆるキャラ、絨毯の柄とかが素晴らしいんだ…。

そして、とにかく猿がかわいい。この猿のぬいぐるみがあったら絶対にほしい。


一瞬だけでも幸福な気持ちになりたいときに、きっとまた読むだろう作品。
www.comicnettai.com

【本】ハーブスと私 ― HARBS誕生物語

エコーチェンバーの外の様子を見るために、ときどきチェックしているX(ほんとうにひどい名前)で話題になっていて、気になって読んだ本。
ハーブス…そんなことになっていたのかよ、と驚いた。元々いつも混んでいて入ったことのない店だ(と思う)が、ますます絶対利用したくないよ…という気持ちに。

でっかいケーキで有名なチェーン店・ハーブスが、夫婦が始めた地域密着型の喫茶店から始まったこと、その後どのようにスタッフたちと工夫を重ねて事業を大きくしていったかということ、その中でどのように創業者夫婦の関係が悪化していってしまったのかということなどなどが、創始者夫婦の妻さんの立場から書かれた本。一応エッセイ、のくくりになるのだろうか。

ハーブスの前身となった喫茶店を立ち上げるところぐらいから読んだので全部は読めていないのだが、店のコンセプト作りや看板商品作りの奮闘の記録は、エネルギッシュかつドラマチックで面白い。私は学生時代にケーキも含む洋菓子を売る店でアルバイトをしていた(と言っても、私がする作業はフルーツをカットして盛り付けるとかそれくらいだったが)んだけど、ケーキ屋って基本的に幸福な人ばっかり見るから、労働条件が悪くない場所で働けるならいいバイブス浴びられて楽しい仕事だよな~と感じていて、そのときのことを思い出しながら前のめりになって読んだ。

「店づくりは、町をつくることなんだ」と、著者の山田幸枝さんが気付いていくところとかも興味深かった。

しかし、店を盛り上げることにご自身の才能をどんどん費やしていき、会社のスタッフの固い信頼を得ていく妻さんがまぶしすぎたのか、夫さんがどんどん妻さんから離れていき、ついには攻撃的になってしまう。結末があまりにもひどく、そしてネットで読める裁判の記録によればおそらくここで書かれている結末は事実みたいで、夢中で読んだあとどっと疲れた。表紙の華やかさからは想像できないくらい、悲しい話だった。

「妻は夫を立て、決してその前には出ない」ってことをむしろ自分から積極的にしていた妻さんだったのに、それでも、夫さんは自分のプライドを傷つけられた気持ちになってしまったのだろうか。夫さんはどうすれば満足できたのか。
この本を読んでからハーブスのサイトに載ってる文言を読むと、とてもつらい気持ちになる。

面白い本ではあったのだけど、なぜか手書きの文字をカメラで読み取ったような漢字変換ミスがちょこちょこ入っていて、それが結構気になった。いつか修正されると良いな。