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旅の目的は「生活」。買い物も冒険だ!:『人生はどこでもドア リヨンの14日間』の感想

朝日新聞元記者&50歳で早期リタイア&アフロがトレンドマークの稲垣えみ子さんの本『人生はどこでもドア リヨンの14日間』が、Kindle Unlimitedの対象になっていたので読んだ(対象になる期間は限られてるかもしれないので…そこはご注意)。

 

それまで、ガイドブックのおすすめスポットを巡る旅行をしてもぴんとこなかった稲垣さん。例えば美術館も雑貨屋さんも。
それって、日本に暮らしているときの私がそこまで美術や雑貨に興味ないからなんじゃ…?自分が興味あることを軸にした旅行だったら、もっと楽しめるんじゃ…?興味あることってなんだろう。あ、生活だ。ただ買い物して、カフェに行ったりすることだ。

あるときそう気づいて、フランスはリヨンにてキッチン付きの宿をエアビーで借りて、基本的にただいつも通りの生活を送るという本。


おおむね、好きな本だった。


海外旅行に時々行ってる方ならば「わかる…そういうとこがつらくて、面白くて、新鮮なんだよね…!」という自分の経験と重ねる面白さがあると思うし、海外旅行未経験の方ならば、「なるほど海外旅行ではそんなことも起こるのか…そこは盲点だった」と感じて楽しめると思う。

稲垣さんご本人も書かれているように、派手なことは起こらない本なんだけど、

日本にいれば無意識に何気なくやっていることが、国境を越えればすべて「何気なく」ではできない。

(『人生はどこでもドア リヨンの14日間』より引用)

なんだよね!


ただ、野菜を買ったりカフェでコーヒーを飲むことが大冒険になる。それが海外旅行…!

有名な観光地に行くことももちろん面白いんだけど、私は海外旅行でのそういう、ちょっとしたことが大冒険になって印象に残ったりするところをこそ、愛している。

私も(って勝手に仲間に入ってしまったが)びびりなので、稲垣さんがお店の人に笑顔をもらえなくて「何か悪いことしちゃったかな…?」って焦ったり、常連さんばっかりっぽいお店に怖くてなかなか入れなかったりしてた気持ち、とてもよくわかる(気がする)。

そういう、あとから振り返れば本当に些細に思えるような出来事に対しての心の動きが丁寧につづられているので、まるで自分も慣れないリヨンで右往左往してるみたいなドキドキが楽しめる。

(民泊を利用した稲垣さんが)階下の住人とお話したり、フランス語があまり話せないなりに工夫して酒屋さんで料理に合うワインを店員さんに選んでもらったりするところ、とてもわくわくした。

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これは私がアルゼンチンで撮った写真(かわいいかぼちゃ)

あと、食についての工夫も勉強になった!
海外旅行(特にアジア以外)でずっと当地のものを食べていると疲れてきてしまうので、ときどき日本料理(ない場合は中華料理など)を食べてほっとする、というトラベルハック(?)は、私も実行している。

稲垣さんはさらにその先を行くハックをお持ちだった。なんと、「旅行先で売ってる野菜を漬物にして食べる」というのだ!おからに塩を混ぜると「おから床」として使えるというのを、私はこの本で初めて知った。

もちろん糠床でもいいんですが、おから床なら漬け床もそのまま食べられるから帰りの荷物も減ってポイントが高いです。人参とか大根とか玉ねぎとかビーツとか残った野菜を切ってどんどこ漬け込めば、どんな「おフランス」の野菜もたちまち漬物に変身。〔中略〕さらに、おから床をそのままスープに入れればおいしい「おから汁」に!腸内環境も保たれるので、旅先でつい崩しがちな胃腸の具合も万全です。

(『人生はどこでもドア リヨンの14日間』より引用)


おお~、帰りは荷物が減らせるっていうのも素敵!これは次に海外に行くときに私もやってみたい!

(他にも稲垣さんは味噌や梅干しなどを持参してるんだけど、稲垣さんの行った時期のリヨンが寒かったからいろいろ持っていけた部分もあるだろうな。気温と湿度が高いところだとドロドロになってしまいそうよ…)

 

一番感動したのは、「民泊ってサービスではあるけれど、でもこうして宿を整えて提供してくれて、困ったとき相談に乗ってくれて、貸主さんとのこの関係、これってやっぱりコミュニケーションだよね!?」と稲垣さんが気づいて、最終日に借りた部屋をきれいに掃除して、プレゼントまで置いて、高評価のレビューを送るところ!

私も個人の方が経営している宿ですっごくお世話になったり迷惑をかけたりしたことが何回もあるけど、稲垣さんみたいに気持ちを返せなかった…、と後悔した。
が!「お世話になったと思ったら、掃除をしたりちょっとしたプレゼントを贈るのもありだ」ということがこの本を通じて新たにインプットされたので、次からはもっとコミュニケーションできる利用者になれると思う…なりたいぞ…!(レビューは緊張するので書けないかもしれないが…)

 

いろいろよかった一方で、

気になる点も少し…。

まず一点目として、ちょっと言葉の選び方で「うっ」と思うところがあった。
「稲垣さんが持参した電化製品用の変換器を使おうとしたところ、宿のコンセントにささらず焦る」というエピソードが出てくるんだけど。

そこで稲垣さんは、「ものすごいマイナーな国ならともかく、フランスですよ?」と書いていて…数年前の私だったらたぶん特に気にも留めなかったと思うけど、なんなら自分でもこういう書き方をしていたと思うけれど、今はちょっとな…引っ掛かるようになってしまった。

「あんまり日本では有名じゃない国で、日本の人でそこに行く人は少なくて、ガイドブック等の情報も限られてる国」っていうのは、たしかにある。あるんだけどさ。そういう国から来た人がこれを読んだら、悲しい気持ちになっちゃうだろうなあ…っていう風には、思ったのだよね…。(比較的)有名な国の人が、「マイナーな国」って言っちゃう感じは、ちょっと乱暴かなって思った。

他に気になったのは、稲垣さんのアフロについて。

リヨンの街中で、稲垣さんのアフロヘアをアフリカ文化リスペクトからしてるものだと思ったらしい人に「ビバ・アフリカ!」って言われたものの、別にそういう気持ちからアフロにしてるわけじゃなかったんだけどね…、と稲垣さんが思うエピソードが出てくるんだけど、ここがちょっとひっかかったんだよね。
MISIAのドレッドヘアのこともTwitterでは文化の盗用だって言われていたから…アフリカのことはよくわからずアフロにしてるっていうのは、文化の盗用だと思われかねないかもな…(特にいろんな文化背景の人が当たり前に暮らしている国では←ほんとは日本にもいろんな文化背景の人が暮らしてるんだけどね…)」と。

自分たちの文化を他の文化圏の人が取り入れてくれることを嬉しいと思う人と、「盗らないでほしい」って思う人、両方いると思うんだよね。だから、「かっこいいと思った外国文化のファッションを自分に取り入れる」ってことがいつも「盗用!」って否定されちゃうのは悲しいなって思うんだけど。

他の文化を取り入れたいなと思ったとき、どうしたら失礼じゃなくそれができるんだろう?このあたりはもっと勉強せねばならんな。