(お腹のところの毛が、ほかの部分よりふさふさしてるのが愛しいんだよな…)
1か月、Disney+が安く契約できるキャンペーンをやっていたので、最近はディズニーとピクサーの作品をめちゃくちゃ観ている。
今日紹介するのはそのうちの一つ、『私ときどきレッサーパンダ』。
(ディズニーは性差別的な議員に献金してたり、クィアな登場人物が出てくる企画を通すのに難色示しがちだったりするし、ピクサーは(性加害を摘発されて会社を離れた)ジョン・ラセター氏はじめ、会社ぐるみで性加害的だったことが明るみになったりってことがあって(※1)会社全体にお金を入れたくない気持ちはあるんだけども…。でもドミー・シーさん(『私ときどきレッサーパンダ』の監督』とか、応援したいクリエイターがいるので、いろいろ観てる。応援したい人たちに直接課金できたらいいのに!!!)
(※1)この記事は英語だけど、DeepLとかで訳して読んでも意味が取りやすい。記事ではピクサーの元従業員の女性の証言が紹介されているんだけど、もうつらくて。
この女性が働いていた頃(2009年から2014年)、ラセター氏が望まぬハグや身体へのコメントをしてきたのみならず、「ラセター氏は若い女性がそばにいると自分をコントロールするのが難しい人なんだよ」と他の社員がラセター氏を擁護して彼女を会議に出させなかったり、リーダー的ポジションにいた女性スタッフの評価が(チームで一緒に働いた人たちが否定したとしても)低くされていたり、化粧をしてこない女性社員が陰で男性に悪口言われていたりしたり…ということが書かれている。これまでどれだけ、ピクサーで働く女性たちは戦ってきたのか。もちろん男性たちの全部が性加害的だったとは思わないけど、こういうおかしな文化と一緒に戦ってくれる人はどれだけいただろう(『プロミシング・ヤング・ウーマン』のことを思わずにはいられない)。(主に)子供に夢を届けよう!って作品をつくってる会社でこんなに女性が差別されてるって、どんな悪夢なんだよ…。
『私ときどきレッサーパンダ』の話に戻りまして、あらすじ。↓
舞台は1990年代のカナダ・トロントのチャイナタウン。そこに暮らすメイは伝統を重んじる家庭に生まれ、両親を敬い、母親の期待に応えようと頑張る13歳の女の子。
でも一方で、親には理解されないアイドルや流行りの音楽も大好き。恋をしたり、友達とハメを外して遊んだり、やりたいことがたくさんある側面も持っていた。そんな、母親の前ではいつも “マジメで頑張り屋”のメイは、ある出来事をきっかけに本当の自分を見失い、感情をコントロールできなくなってしまう。悩み込んだまま眠りについたメイが翌朝に目を覚ますと…なんと、レッサーパンダになってしまった!
この突然の変身に隠された、メイも知らない驚きの〈秘密〉とは?一体どうすれば、メイは元の人間の姿に戻ることができるのか?ありのままの自分を受け入れてくれる友人。メイを愛しているのに、その思いがうまく伝わらずお互いの心がすれ違う母親。様々な人との関係を通してメイが見つけた、本当の自分とは――。
(Disney+の作品紹介ページより引用)
最近恋人と『歴代アカデミー賞(作品賞)受賞作を全部観ていくプロジェクト』もやってるんだけど(プロジェクトっていうか、ただ観ている。笑)、さかのぼっていくにつれて「まーじで過去の(主に)アメリカ映画って、白人の人(特にシスヘテロ男性)ばっかり出てくるな!」ってことが気になってきていて。これが「ふつう」だと思って違和感覚えずに観てたのが、やっぱり異常だなと…。
この映画の主人公メイメイ(←愛称)は、中国系カナダ人の、とびきり美女でもなければとびきりのスタイルでもない女の子(足が太いところがいいんだよね。そうだよ、そういう人もいるよ、人間だもの!という気持ち…。作品背景を語っていたドキュメンタリーによると、目の左右の大きさが微妙に違うとか、ほくろがあるとか、生きてる人間にある特徴を、この作品のキャラデザではなるべく取り込もうとしたとのこと)。彼女はいわゆる優等生キャラなんだけど、同級生の仲良しの間ではオタクのお調子者で通ってて。目の前にいる人によって見せるキャラを変えるって実在の人物では当然あることだけど、「マイノリティ」のキャラだとあまりそこが描かれないことも多い。「アジア系」の「女の子」が、ちゃんと複雑な人間・多面的な人間として描かれていることが、まずすごく嬉しかった。
そして演出とギャグの質が、とても高くて面白かった。倫理観が信用できてかなり面白い作品、っていっぱいないからさー…面白かった以上に嬉しかった。
(私が観てきた限り)ピクサーの作品に共通する特徴として「物語の登場人物と自分の感情の上がり下がりのグラフと、音楽や映像などの演出のテンション、三つがばっちり一致するときの気持ちよさ」があると思うんだけど(これがうまくいってない作品だと、「画面の中は盛り上がってるっぽいが私はついていけていないぞ…置いていかれた」という気持ちになる)、本作は特に音楽の使い方がアガる!かっこいい音楽が、ここで来てほしい、ってタイミングで大波のようにばっしゃーんと来るので爽快だった。中国の伝統的な文化(っぽさ)と、北米的なポップカルチャーをそうやって絡ませるのね!?という新鮮な演出もあり。
ギャグで言えば、主人公の友達3人のふざけたテンションが私はすごく好きだった。特に好きなのはアビー。変な顔と変なポーズばっかりしていて、愛しい。プリヤが、基本的にクールな人だけど時々おふざけ感を出すところも、人間らしくて好きだったな。(あとミリアムの、緑のチェックのアウターに白黒市松模様のスリッポン合わせるところが、いかにも中学生っぽくてこれもよかった笑)
舞台は1990年代なので、その時代の「懐かしい~」って感じと、今っぽさがうまくミックスされているところもよかった。
90年代ぽさで言えば、私とドミー・シー監督は完全に同世代なので「こういうの、見覚えある!!」ってものが多すぎた。たとえば虹&雲のモチーフやペガサスのモチーフ、メイメイが履いている暖かそうだけどださい厚手のレギンスや、メイメイの友達(アビー)がしているラメのヘアバンドなど笑。ちなみにドミー・シー監督は日本のアニメも好きらしく、おねだりするときキャラクターが目をうるうるさせたりとか、かなり日本の昔の2Dアニメ風演出があって、そこもかわいらしい。(Disney+に入ってるドキュメンタリーでは10代の頃の監督が描いた「(ハリーポッターの)マルフォイの子供」というオリキャラのイラストが公開されていて、そのあたりの若干黒歴史っぽさにも親近感を覚えた笑)
今っぽさについて言うと、とにかくスピーディ!一緒に観てた恋人が「最近のYouTubeの編集のスピード感だね」と言ってたけど、切り替えが多い&速すぎて観始めて最初のほうはついていくのが少しきつかった…(だんだん慣れたけど)。ストーリーの中の核になる「推し」文化の描写も、1990年代のそれというよりは今っぽさが色濃い気がした。メイメイの母方の親族が見得を切るシーンが何回かあるんだけど、そこのキャッチ―さにも私は心を奪われた(ので、ぜひ注目してみてください)。
ストーリーとしても、ピクサー作品でよく取り上げられる(気がする)「成長とは喪失を伴うものだ」っていうテーマが、少し切なく扱われててよかった。親子の話についても、喪失を味わうのはどちらかだけじゃなく、両方で。子供にとっては、親っていうのが「神」でも「すべて正しい人」でもなく、ただの人間だとわかってからが、大人の始まりだよね…。親はいつか、子供が一人の人間で自分とは違う価値観で生きている人だと知って、その違うところが大きくなっていくのを見守る存在だから、どうしても切なくはなるよね…(私は誰の親ではないけども。あとこれに気づけない(気づこうとしない)親はいるけども←問題点はあるけど『死ぬほどあなたを愛してる』という、代理ミュンヒハウゼン症候群を扱ってる映画がこのテーマについて考える上ではおすすめ)。
と、おすすめポイントはいろいろあるんだけど、「今年観た映画ベスト10に入るねレベル」かっていうとそこまでではなく…。今とても必要な物語だと思ったし、勢いがすごく好きな作品だったんだけど、ファンタジーシーン(主に竹林のシーン)に、リッチさがもう少しあったらもっとよかったなー、そこが惜しかったんだよなー。私がピクサーの映画で特に「面白い!」って思うところはそういう点なので(この映画は従来のピクサーらしさの枠を出ることを目指していたようなので、こんな感想は無粋かもしれないけど)。画面を一時停止してじっくり観たい仕掛けがほしいというか…(たとえば、『インサイド・ヘッド』の空想世界のデザイン、みたいなところ)。しかしピクサー、過去に女性が制作のトップのほうにいたときに、スタッフを増員してほしいと要求しても通らないことがあったりしたと最初のほうに貼ったウェブの記事で読んだので、今作ももしかしたらそういう事情が絡んでるのかもしれない…。邪推ですが。
前のほうでも少し触れたけど、Disney+にはこの作品の制作に関わった女性たちの声を紹介するドキュメンタリーも入ってるので、こちらもあわせて観るのがおすすめ。前述の記事で綴られていた、ピクサーの「男社会」な風潮で女性たちが苦しんできた背景とかを読んでから考えると、『レッサーパンダ』もドキュメンタリーも、観たとき残るずっしり感が違う…。私はこれまで、ピクサーって上下関係なく意見が言いやすくて、誰にとっても理想的な職場だと漠然と思ってたから、上に貼った記事を読んでなおさらがっかりしたんだよね…。この記事を読んだ上で他の作品のメイキング的ドキュメンタリーを観ると、ちょっと女性たちが萎縮して見える。本当に言いたいこと言えてるのかな、「女性も活躍してますよPR」に使われちゃってないかな…と心配になる。
この作品のドキュメンタリーでは、出てくる女性たちがみんなリラックスして笑ってるように見えて。だから、メイメイみたいな、表情豊かで多面的な女の子を丁寧に描けたんじゃないか、って思って。作品単体としても、世界の現在地としても、嬉しい気持ちになって観終える作品だった。